本記事は令和6年6月15日に開催された、「令和6年度 第1回NEXT産業創造塾」(*zoom開催)でゲスト講師として登壇されたの鎌田恭幸氏と株式会社キッチハイク取締役/CRROの川上真生子氏のイベント講演記事を公開いたします。
Ⅰ:鎌田恭幸氏 (株)鎌倉投信代表取締役
Ⅱ:川上真生子氏 (株)キッチハイク取締役/CRRO
Ⅲ:パネルディスカッション (コーディネーター 亀井省吾氏)
Ⅰ:鎌田恭幸氏 (株)鎌倉投信代表取締役
社会資本を価値化する鎌倉投信の挑戦〜つながりと集積から新たな価値創造に挑戦〜
鎌田氏は、2008年に鎌倉投信株式会社を設立しました。同社では、2010年3月から「結い2102」という公募の投資信託を運用・販売し、2021年3月からは、新たに「創発の莟(つぼみ)」というスタートアップ支援の有限責任投資事業組合を立ち上げています。
まず同社の志、社会への思い(経営理念)が紹介され、調和を生む「和」の心を大切にし、「話」と出会い、「輪」がつながる、こうした3つの「わ」が生まれる「場」としての運用会社でありたいと鎌田氏は言います。
心のこもった金融
まず鎌倉投信の志、社会への思い(経営理念)が紹介され、調和を生む「和」の心を大切にし、「話」と出会い、「輪」がつながる、こうした3つの「わ」が生まれる「場」としての運用会社でありたい、と鎌田氏は話しました。
そして将来の目指す像や、そのための目標など、社会が持続的に発展するためのビジョンをわかりやすく説明して頂きました。
そんな鎌倉投信は、社会資本の価値化に挑戦しています。
そこで、鎌倉投信が考える社会資本価値化の着眼点として、以下の4点をあげました。
1.「いい会社」を観る視点とエンゲージメントによって生まれる社会価値創造
2.最終投資家との対話によって育まれる人と人との関係資本
3.スタートアップ・非上場会社への投資における過小評価された社会資本のバリューアップ
4.金融教育・起業家育成を通じた自立型人材の輩出
1.「いい会社」を観る視点とエンゲージメントによって生まれる社会価値創造
まず、鎌倉投信が運用・販売する「結い2101」で、投資先の選定、評価基準には「いい会社」に投資するとされています。この「いい会社」の選定項目には、三つの価値基準と、三つのテーマ、九つの評価視点があることを説明しました。実際の投資先としてコタ㈱やアミタ㈱、マイファーム㈱、三洋化成工業㈱らが紹介され、鎌田氏は、これからの日本に必要とされる会社で、かつ、ビジネスを展開する上で関係する人々全てを持続的で豊かな社会を醸成できる会社を選定している、と話しました。
2.最終投資家との対話によって育まれる人と人との関係資本
鎌倉投信では、販売を通じた顧客対話の例として、投資先のいい会社や年に一度の受益者総会という決算報告会を開いています。
鎌田氏は、「受益者総会には展示ブースも用意し、私たちはいろんな投資先の経営者さんにお話をしていただくときに、株価とか業績とか数字の話っていうのはしていただいてません」と言う。
その理由として、「自分たちの会社はそもそも誰のために、何のために存在しているのかというような思いの原点とか、それから、これからそれぞれの会社が持っているビジョン、ミッションを通じてどういう社会を作っていきたいのかっていうような世界観をしっかりと伝えていただきたい」と鎌田氏は話しました。
また、「みなさんカンブリア宮殿だとかテレビに取り上げられる有名な経営者ですけども、元々は名もない、実績もない、経営力もない、ただ1人の人間だったわけで。でも、何かこう強い思いを持って世の中に訴えて、今立派に会社経営をされ、社会にもインパクトをもたらすようになった、つまり全てはたった1人の思いから始まっている。それを感じ取っていただいた時に、お客様の中にも行動の変化、思考の変化っていうのが生まれ、それに共感した方々の行動の変化そのものが社会的なインパクトになると思っています。1人が変われば、その周辺の3人、5人が変わっていきますので、関わりの中でいろんなことに気づいた時にお客様自身が変わっていく。それぞれの地域、それぞれの職場、それぞれの家庭で変わっていく。ここにすごく意味があると思っています。」
投資の提供価値は、単なるお金を増やすということだけではなく、投資の定義は、新たな出会いを生むものであるという風に定義している、と鎌田氏は話しました。
鎌倉投信では、「繋がる資産運用」を目指していることが伝わりました。
3.スタートアップ・非上場会社への投資における過小評価された社会資本のバリューアップ
「上場企業が地域に入り込んで、どっぷりとバリューアップしていくことは、なかなか難しいため、スタートアップ、非上場の会社、地域に根差した会社がどう頑張れるかっていうのは重要なポイントです」と鎌田氏は話しました。
3年前から始めたのがスタートアップの投資事業。テーマは「社会創発」ということで、単に1社単独で成長するのではなく、いろんな地域、いろんな産業分野に影響を与え、総合シナジーが生まれることによって社会に変化をもたらす会社を探し求めて、現在は19社に投資をしています。
しかし、鎌倉投信単独でそれをサポートしようと思っても限界があり、色々な人が遠い先の未来を一緒になって応援するということが重要とし、お金だけではなく、知恵も本気も出して、いろんな投資先を応援していこうという座組を「創発の莟」が作っています。
鎌田氏は、「地域の中で地域の課題を解決するには、地域の枠を超え、発想を超え、経済空間を超えていくことによって地域の課題をプラスに転換させていくことが重要である」と話しました。
そして、地域でスタートアップを目指すのは極めてハードルが高いため、鎌倉投信では、中堅、中小を緩やかに成長させる方法、小さな種をたくさん増やしていくという視点が地域には重要だと伝えました。
4.金融教育・起業家育成を通じた自立型人材の輩出
鎌倉投信では、金融教育・起業家育成を通じた自立型人材の輩出のために、スモールアップ・インキュベーションゼミにも取り組み、思考を広げるための場作りを調整しています。
最後に、「単にお金を増やす、というような経済目的だけを目指した投資からは、社会は全く変わりません。思いのあるお金、たくさんの思いのこもったお金の繋がりから社会資本を可視化していくことが重要です。
そういったところで、キッチハイクさんはそれなりの実績が出てきたということで、ぜひその代表例の1つとして、この後、キッチハイク川上さんの話を聞いていただければと思います。」と締めた。
Ⅱ:川上真生子氏 (株)キッチハイク取締役/CRRO
「地域の課題解決と同時に、社会全体への貢献を目指しており、1つのソリューションで複数の課題を解決するアプローチを探し続けています。」
こう話すのは、株式会社キッチハイク取締役/CRROの川上真生子氏。東京大学を卒業後、楽天に就職。2017年にキッチハイクに3号社員としてジョインし、2023年より現職。コロナを機に福岡市にUターン移住し、九州支社を拠点にリモートワークで活動されています。
キッチハイクでは、保育園留学という事業を展開しており、家族で地域に滞在しながら子供を保育園に預けるという新しい形態の事業で、地域の課題と家族の課題を同時に解決することを目指しています。この事業は北海道の厚沢部町から始まり、現在は全国約40の自治体で実施されており、累計1,000世帯以上が利用しています。保育園留学を通じて、地域に関係人口が増え、経済効果や移住者の増加にもつながっています。さらに、この事業から派生して、小学生留学、おとなの保育園留学、留学不動産、おむかえテイクアウト など、様々な周辺事業が生まれています。これらの事業は、地域の課題解決と同時に、社会全体への貢献を目指しており、1つのソリューションで複数の課題を解決するアプローチがとられています。
保育園留学事業の概要
保育園留学は、家族で1~3週間域に滞在しながら、子供を保育園に預けることができる事業です。「保育園の一時預かりと宿泊施設、ワークスペースをパッケージ化して提供しており、子供に都市部では得られない体験をさせることができる上に、家族にとっても世界が広がる体験となります。また、地域にとっても子育て世帯との長期的な関係性が作れ、関係人口が増えるメリットがあります」と川上氏は紹介しました。
保育園留学の始まり
「保育園留学の始まりは、北海道厚沢部町の認定こども園「はぜる」です。代表の家族が当時2歳の娘を通わせたことがきっかけとなり、この体験から家族の課題と地域の課題を同時に解決できる事業になると考えられました。厚沢部町は人口3500人の小さな町ですが、はぜるは120名の定員に対して大きく割れている状況でした。外から子供を受け入れることで、活性化を図ることができました。」と川上氏は話しました。
保育園留学の拡大と効果
保育園留学は現在、全国約40の自治体で受け入れを行っており、利用者は累計1,000帯以上、3,500以上にのぼりっている。厚沢部町では、年間150世帯、300人以上が訪れており、人口比で10%のインパクトがある。95%の利用者がリピートを希望しており、一部の家族は1年に3回も訪れ、また、3世帯が移住するなど、地域への定住にもつながっている。1回の滞在で20万円から40万円の経済効果があり、地域経済の活性化にも貢献しているそうだ。さらに、保育園留学の展開を通じて、様々な周辺事業が生まれており、インバウンド留学、小学生留学、おとなの保育園留学、留学不動産、おむかえテイクアウト、留学先納税、ダイバーシティドア、子育て支援ギフトなどの事業が展開されています。
Ⅲ:パネルディスカッション(コーディネーター 亀井省吾氏)
福知山公立大学地域経営学部教授である亀井省吾氏をコーディネータに、2名の講演者がパネラーとなり、参加者の質問に対して回答を行いました。主な質問と回答は、以下のとおりです。
まずは鎌田氏へ、「地域にはどのようなポテンシャルがあり、それを引き出すにはどうすれば良いでしょうか」という質問がありました。
鎌田氏は、「自身が自らの地域の良さを感じながら、内発的に活動をしていくことがまず最初なんだろうなと思います。地域のことを自分事としてまず考えていく。しかしながら、地域だけでは変えていくことがなかなか難しいケースもあります。その際に、地域の垣根を越えて外発的な力も活用しながら一緒にやっていくことが必要だと考えます。」と答えました。
次に、川上氏に質問がありました。「地域の自治体あるいは事業者をどのようにリサーチしているのですか?」という問いに、
「現在は、信頼できる既存の株主様などからの紹介で繋いでいただいたりしています。ネットワークの広がりの中でいろんなご相談や声掛けがあるので、単に関係人口を増やしていくだけではなく、関係の質を高めていくようなことも大切だと思っています。そのために、私達は自分たちはこういうことを考えていますとか、こういう未来を描いています、というのをオープンにすることを意識的にやっています。それはコーポレートサイトだったり、経営者のnoteの発信みたいな細かいところも含めて発信することで、思いを同じにする人と出会いやすくなります。」と話しました。
続いて「鎌田社長の描く未来の社会において、さまざまな社会課題を抱える地域社会はどんな役割を担うのでしょうか?」という問いに対し、
「まず前提条件として様々な社会課題を抱える地域社会とありますが、都心は都心部で社会課題があって、実は地域を越えて社会課題だらけだという視点は共有したいと思います。そういった中で、地域社会はどんな役割を担うかという側面なんですが、ひとくくりでは語れないと思っていて、地域もそれぞれの地域特性があり、その地域はどういう役割を担っていくのかという側面、住民としての地域の作り方という側面、いろんな切り口があると思います。ただ大事なことは、この地域ってどうありたいのかというビジョンだと思います。そして、どのようにまちを作っていくと、安心して心豊かに暮らせるのか。自分たちの地域を何とかしようという発想では役割は担えなくて、大きな視点で、日本や場合によっては世界に対してどう貢献していこうかというくらいの発想がないと、役割っていうのはないと思います。何か思いが絡み合ったときに、自分たちの担う役割っていうのが見えてくるんじゃないかと思います。」と鎌田氏は答えています。
最後に亀井氏より、「地域の未来は、各人が自分ごとと捉えていくことを前提に、多様な繋がりの中で考えていかないといけないと改めて感じました。そのためには、地域を越えていく努力も重要で、本日のお二人のお話は正に良い機会になったのではないかと思います。」と御礼が述べられ、締め括りとなりました。
レポート後記(筆者より)
地域が果たすべき役割は、単に地域を元気にするだけでなく、世界に対してどう貢献していくかという発想が重要だと学びました。また、川上氏のお話で何度も出てきた、「地域の課題と家族の課題を同時に解決するソリューション」を求め続ける姿勢も印象的でした。
地域ごとに様々な社会課題がありますが、地域の人々自身がその地域の良さを感じ取り、思いを持って取り組むことが大切で、そのためには、地域のビジョンを共有し、合意形成を重ねながら、外部の力も活用していく必要があるのだと学びました。
<執筆者> 福知山公立大学地域経営学部地域経営学科3年 森中公太
・(株)鎌倉投信:https://www.kamakuraim.jp
・(株)キッチハイク:https://kitchhike.jp